📖 はじめに
「この声が届くまで」(著者: 上田竜也さん) の感想。
ただの感想である。考察ではない!ネタバレ込み!!
📘 この本について(概要)
物語の概要と、読むきっかけを簡単にまとめる。
📝 あらすじ
幼馴染や高校時代の仲間たちと、バンドでの成功を目指す物語。
⏱️ 読了までにかかった時間
- 5時間31分
僕は遅読なので、それなりに時間がかかった。
ただ、文章自体はかなり軽めで、350ページほどあるわりにはテンポよく進む。
読むのが速い人なら、2時間くらいで読み終わるかもしれない。
❓ なぜこの本を読んだのか?
他人様にはあまり関係のない話だが、今回はこの本を手に取るまでに色々と思い入れがあったので、少し長めに書かせてもらう。
妻が、KAT-TUNの元メンバーである上田竜也さんのファンである。
普段はほとんど本を読まない妻から、「この本を買ってほしい」と頼まれたので、発売当時に購入した。
ちょうどその頃、僕は三宅香帆さんにハマっていた。
三宅さんのYouTubeを見ていたら、そこに上田竜也さんが登場して驚いた。
しかも、話していたのは『この声が届くまで』についてだった。
動画の中で「30代にオススメ」という話が出ていたので、「じゃあ30代の僕も少し読んでみようかな」と思った。
しかし、思っただけで読まなかった(ォィ
それから10か月以上が経った。
ある日、このサイトのアクセス解析を見ていたところ、以前に書いた加藤シゲアキさんの『ピンクとブルー』の記事に、今でもちょいちょいアクセスがあることに気づいた。
そういえば、加藤シゲアキさんは2023年に直木賞の候補にもなっていた。
そこで、「Amazonではどれくらいレビューが付いているんだろう?」と、なんとなく評価を見てみた。
その流れで、「そういえば元ジャニーズ関係で言えば、妻が買った上田竜也さんの本もあったな」と思い出した。
『この声が届くまで』は、どれくらいレビューが付いているのだろう。
興味本位で見てみたところ、加藤シゲアキさんの本よりもレビュー評価数が多かった。
予想外の結果に、僕の脳内は少し混乱した。
- 僕はAmazonレビューの正しい見方を理解していないのだろうか?
- 小説を何冊も書いている加藤シゲアキさんの本より、初めて小説を書いた上田竜也さんの本の方が評価数が多いって、どういうこと?
- これは内容というより、ファン同士の戦いなのだろうか……(失礼な感想だが、脳内の選択肢として出てきてしまった)
もちろん、レビュー数が多いから内容まで上という話ではない。
それでも、「この数字はいったい、どういう理由でこうなっているんだ?」と妙に興味が湧いた。
果たして、このレビュー数にはそれだけの理由があるのか。
自分でも読んで確かめてみたくなった。
妻に本の所在を聞いてみたところ、まだ購入時の段ボールに入ったまま保存されていた(苦笑)
しかも、よく考えたら、この本は僕のお金で買っていたことを思い出した。
妻は「自分で払う」と言っていたのだが、当時の僕が楽天ポイントを消費したくて、その申し出を断っていたのである。ということは、これ、僕の本でもあるじゃん。
それに、10か月前に見た三宅香帆さんとの対談内容もほとんど忘れていた。
これなら余計な先入観もなく、素の自分で物語を楽しめそうだな、とも思った。
そんなわけで、ようやく読むことにした。
💭 感想まとめ
読んで感じたことを、自分の言葉で自由に書く。
感想・批評はすべて僕自身の主観である。
そして僕にとって、上田竜也さんは、妻の心を奪う敵でもある(笑)。
僕はそれほど心の器が大きくないので、そんな敵である上田竜也さんが書いた小説となれば、多少は辛口な感想になってしまうかもしれない。そのあたりは、あらかじめご容赦いただきたい。
🌀 読後の感想
ありきたりな展開で、目新しさはほとんどない。
ただ、その王道でベタベタな展開に、ここまで振り切っているのは逆に面白かった。
最近では、ここまで真正面から王道をやる作品の方が珍しい気がする。
とにかく展開がベタすぎる。
上田竜也さんは40歳らしいが、よくこの内容を恥ずかしがらずに書けたな……。と思ってしまった。
僕もアラフォーなので、もし自分がこのストーリーを書けと言われたら、たぶん少し恥ずかしい。
読んでいる側ですら、「これを40歳のおじさんが書いたのか……」と思うと、少し気恥ずかしくなるくらいだった。
でも、ここまで恥ずかしがらず、真正面から熱い展開を書けるところが、上田竜也さんの良さなのかもしれない。と、作品を通して感じたりもした。
ちなみに感想を書き終えたあと、妻にこの話をしたところ、
「最近書いた本ではなく、もっと前に書いていたけど、諸事情で発売が最近になったらしい」とのことだった。
妻から聞いた話なので、本当かどうかはわからない。
ただ、この感想を書いたあとに三宅香帆さんとの動画を見直してみたところ、上田竜也さん本人も「もっと若い頃に書いた」という趣旨のことは話していた。
それにしても、物語はあまりにも直球である。
どストレート勝負。王道漫画ばりの、王道パターン展開だった。
正直、もしこれを上田竜也さんではなく、まったく無名の新人が書いて出版社に持ち込んでいたら、そのまま世に出ることはなかったんじゃないか。と思ってしまった。
それくらい、今どきでは珍しいほどのド直球な王道展開である。
逆に言えば、上田竜也さんという名前があったからこそ、ここまで遠慮なく王道に振り切った作品を僕も読むことができたのかもしれない。
そういう意味では、この作品を読んで、改めて「上田竜也」という名前が持つブランド力の強さを認識せざるを得なかった。
良く言えば、熱い。いや、熱すぎる。
物語全体のテンションが、ずっと高校生みたいなノリなのである。
だから、この作品は読者によって好みがかなり分かれると思う。
人によっては、「ちょっと幼稚すぎる」と感じて、ついていけないかもしれない。
上田竜也さんのファン層は、そこまで若くないと思うのだが、このテンションについていけるのだろうか。
……いや、そもそもファンにとっては、ついていける・ついていけないなんて関係ないのかもしれない。
幼稚だろうがベタだろうが、好きな人が書いた作品なら、それも含めて愛せる。
それがファンというものなのかもしれない。と、途中から作品とは少し違うことまで考えてしまった。
📖 各章ごとの感想
以下で引用する章タイトルは『この声が届くまで』(上田竜也 著)から引用。
感想・批評は僕自身のものである。
📘 第1章
バンド内で揉め事が起こり、メンバーが脱退するところから物語が始まる。
そこから母校へ戻って原点回帰し、もう一度バンドでの成功を目指す。
初っ端から、かなり王道な展開だった。
最初に気になったのは、独特な文体である。
いろいろな登場人物の感情が、第三者目線から次々と入ってくる。
僕が普段読んでいる小説とは感覚が違い、脳内がこの書き方に慣れるまで少し時間がかかった。
僕は演劇をやったことがないので詳しくはわからないが、小説というより、どこか台本に近い書き方なのかな?とも感じた。
以前、三宅香帆さんとの動画で、上田竜也さんが「小説はあまり読まない」というような話をしていた。
僕はその前情報を知っていたので、「小説をあまり読まない人で、舞台やドラマに関わってきた芸能人なら、こういう文体になるのかな」と、自分なりに理由づけをして受け入れることができた。
逆に、そういった前情報をまったく知らずに読んだら、「なんだ、この文章は?!」と、最初は戸惑う人もいるような気がする。
ところどころ表現が昭和……いや、平成なのか?
学校の用務員のおじいさんに頭を叩かれる場面で、効果音が「フーフー」と表現されていたりして、なんだか平成初期っぽさを感じてしまった。
ただ、そう考えると、三宅香帆さんとの動画で話していた「30代にオススメ」というターゲット層は、けっこう合っている気もする。
僕自身、こういう少し懐かしいノリを見て「懐かしい」と思ってしまうことで、自分が歳を重ねたことを無理やり客観的に実感させられた。
📕 第2章
一念発起して頑張った結果、音楽事務所に声をかけてもらえた。
……と思ったら、ここで一度落ちる回だった。
衣装の色が「黒・赤・金」だったので、KAT-TUNを意識しているのかな?と、つい考えてしまった。
とにかく明るい安村さんのネタも出てきて、「上田竜也さんと仲が良いのかな?」とか、作品とは関係ないことまで気になってしまう。
ほかにも芸人さんの名前がいくつか出てきたので、そのたびに、「これは意図して登場させているのかな?」と考えてしまった。
僕は上田竜也さん本人のことをあまり知らないからこそ、こういうところが余計に気になるのだと思う。
物語全体のテンションはかなり軽い。
アラフォーの僕には、若干しんどさすら感じた……。
特に気になったのは、主人公たちの年齢と、行動や発言のテンションがあまり噛み合っていないことだった。
「バンドマンだから少し幼いのか?」とも思った。
しかし、「バンドマンだから幼くても仕方ない」という考え方で納得してしまうと、世の中のバンドマン全体に失礼な気もする。
そのため、自分の中ではうまく飲み込めない設定だった。
読み進めながら、数か月前に見た三宅香帆さんと上田竜也さんの動画で語られていた内容を、ところどころ思い出した。
そして、この軽いノリは、小説よりも漫画・アニメで読んだ方が、もっと素直に楽しめるのではないか。と思った。
たとえば、ペンが額に突き刺さるような描写も出てくる。
いやいや、小説の世界でそれはやりすぎでは……?と思ってしまった。
ちなみに、あとで三宅香帆さんとの対談動画を見返したところ、この描写は編集者に止められたものの、上田竜也さん本人が強引に通したという趣旨の話をしていた。
その話を聞いて、編集者の苦労が少し垣間見えた気がした(苦笑)。
こういう場面は、ところどころ海外アニメっぽいノリでもある。
「トムとジェリー」「サウスパーク」「ブルーイ」あたりを彷彿とさせるような、物理法則を無視した勢い重視のギャグやツッコミが展開されていた。
だからこそ、やはりこの作品は小説というより、漫画やアニメの感覚に近いのかもしれない。
📗 第3章
ここでは、事務所の過去が描かれる。
社長の過去の失敗。幼い子どもが亡くなった悲劇。
そして、その出来事でマネージャーが負った古傷。
ここも、かなり王道な展開だった。
これでもか?!というくらい、ベタな要素を次々と詰め込んでくる。
ただ、僕はこういうベタベタな展開自体は嫌いではない。
むしろ、ここまで真正面から王道をやってくれると、これはこれで面白い。
📙 第4章
バンドは、再び出発する。
そして今度は、SNSでバズる展開になった。
事務所がダメなら、次はSNSを使う。
うーん、これも昨今の作品ではかなり王道な展開である。
しかも、喧嘩しているシーンを流して話題になる。
一瞬の炎上……というより、自爆炎上商法みたいな感じなのだろうか。
作中に出てきたAcid Black Cherryや、NANAの「GLAMOROUS SKY」は懐かしかった。
たしかに、30代の僕にはかなり刺さるネタである。
……ただ、同時に思った。
もう、こういうものがSNSで「懐かしいネタ」として扱われるくらい昔のものになっているのか。作品に刺さったと思ったら、そのまま自分の年齢まで刺されてしまった。
またひとつ、自分がオッサンになったことを実感させられた……。
📘 第5章
ライブ前に、祭りで少し小休憩する回。
そして、まさかの武道館ライブ。
もう本当に、遠慮なく振り切った展開すぎるwwww
ここまで来ると、「そこまで行くの?!」という驚きよりも、「もう好きにやってくれ」という気持ちになってくる。
それと、いまさらながら光ちゃんが普通に働いていた設定にも驚いた。
僕は勝手に、みんなボンボンの子どもか、逆に貧乏でバイト生活をしているようなイメージを持っていた。
完全に僕の思い込みなのだが、なんとなく生活感のある設定が出てきて意外だった。
祭りの勝負では「型抜き」が出てきた。
でも、僕は型抜きの屋台を一度も見たことがない。
これ、今でも普通にあるの?
それとも、型抜きの屋台がある・ないは地域差なのだろうか。
そして、龍とヒロトの祭り勝負の結末は、さすがに酷すぎる。
金魚を20匹すくう時点でだいぶ非現実的なのに、さらに妨害で小石を投げてポイに穴を開ける。
しかも、その妨害に周囲の誰も気づいていない。
いやいやいや、さすがに無理があるだろwww
ここまでくると、本当に作者さんのやりたい放題だな。と思った。
もはや「ありえない」と冷める段階を通り越して、笑うしかない。
そんなフザケた展開のあとだったからこそ、龍が七海ちゃんに告白したセリフは真面目で良かった。
ここは素直に、ちゃんと良いシーンだったと思う。
📕 第6章
七海ちゃんを失ったシオンが立ち直り、武道館でライブをする話。
七海ちゃんは亡くなるんだろうな。と思っていたら、案の定その展開になった。
最初は、病気で寿命が尽きる展開なのかな?と思っていた。
ところが、実際にはシャインの過去と重なるように、酔っ払いの運転による交通事故で亡くなる。
ここで過去と同じ悲劇を重ねてくるのも、また王道な展開だな。と思った。
そして、そのあとに「実は寿命も長くなかった」と明かされる。
これもまた、王道な後出しジャンケン展開である。
ここから先は、もう王道展開を熱い言葉でグイグイ押し通していく感じだった。
ただ、僕はこういう熱い展開が嫌いではない。
ベタだな。と思いながら読んでいたのに、気づけば少し目頭が熱くなってしまった。
七海ちゃんと龍、ヒロトの約束については、350ページもある作品なのに338ページまで明かされなかった。
さすがに引っ張りすぎだろ。と思った。
そして、武道館のシーン。
最後に、七海ちゃんが龍の横に立っているような描写がある。
この場面を読んだ瞬間、僕の頭の中では完全にアニメや漫画のワンシーンとして再生されていた。
うん。やっぱり、この作品は僕の中では小説というより、アニメや漫画に近い。
最後まで読んで、改めてそう思った。
📝 まとめ
読む前は、もっと酷い内容なのかな?と思っていた。
しかし実際に読んでみると、今どきなら王道すぎて逆に誰も書かなそうな展開を、真正面からやり切っていて、これはこれで面白かった。
ただ、最後まで読んでも、この作品は小説より漫画の方が相性は良さそうだな。という印象は変わらなかった。
誰か漫画化してくれたら、もっとスラスラと楽しめるような気がする。



